「腰の右側が痛かったので、湿布を貼っていたらかぶれてしまいました」
こう言って診察室に入ってきた患者さんを診察すると、実際には帯状疱疹であったということは皮膚科医であればよく経験していることです。
体の片側にだけ症状が出る帯状疱疹。早期に適切に治療を行えれよいのですが、治療が遅れると重篤な後遺症を残すこともあります。
この記事では帯状疱疹の症状、原因、治療、予防法について皮膚科専門医が徹底解説します。
帯状疱疹の症状
帯状疱疹の症状は、体の左右どちらか片側だけにあらわれる神経痛のようなピリピリとした痛み・違和感から始まります。その後数日すると虫刺されのような赤い発疹が、神経痛の部位と一致して片側性に出現します。この時期に軽度の発熱やリンパ節腫脹、頭痛などの全身症状がみられることもあります。間もなく赤い発疹の上に小さな水ぶくれが多発してきます。
顔面や体、四肢など場所を問わずに発症しますが、左右どちらかだけに症状が出るというのが最大の特徴です。
帯状疱疹の原因
帯状疱疹の原因は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)というウイルスです。その名の通り、水痘(みずぼうそう)の原因ウイルスでもあります。今成人しているみなさんはだいたい子供の頃に、VZVに感染していると思われます。VZVに初感染した場合、みずぼうそうとして全身に水ぶくれの症状ができます。
みずぼうそうが治ってからも、VZVは皮膚の発疹から神経を伝わって、所属の後根神経節内に潜伏するといわれています。そして、何らかの原因で体の免疫力が下がると、このウイルスが再び活性化し帯状疱疹を引き起こします。
ウイルスが再活性化されるとまず神経節内で増殖、神経を伝って皮膚に達して赤い発疹や水ぶくれが帯状に出現します。神経は体の中央(背骨)から左右に分かれていますので、(基本的には)左右どちらかにしか帯状疱疹の症状は出ません。
帯状疱疹の誘因としては、高齢化や過労、ストレス、病気、免疫抑制薬の影響などが挙げられます。
帯状疱疹の治療
帯状疱疹の治療には、抗ウイルス薬が処方されます。その他、痛みに対しては鎮痛薬、皮膚の水疱に対しては外用薬を処方いたします。
帯状疱疹に処方できる抗ウイルス薬は主に以下の3種類があり、症状や血液検査データ、患者さんのライフスタイル、経済的背景等を考慮して決定します。
- バラシクロビル(バルトレックス®)
- ファムシクロビル(ファムビル®)
- アメナメビル(アメナリーフ®)
いずれの薬も1週間内服していただきます。
抗ウイルス薬の注意点が2つあります。
効いてくるのに時間がかかる
まず、抗ウイルス薬には即効性がないということです。抗ウイルス薬はウイルスが増えるのを抑える薬なので、見た目の皮膚症状に効果が出てくるのは内服開始してから2−3日後になります。
「帯状疱疹と診断されて、他院で薬をもらったのに全然良くならない!」と駆け込んでくる患者さんがときどきいますが、お薬はちゃんと効いてきますのでご安心ください。
腎機能への影響
第二に、腎機能への影響が挙げられます。バラシクロビルとファムシクロビルについては腎臓から排泄されるお薬になります。内服薬の影響で腎機能が低下してしまうことがあります。また、元々腎機能が悪い患者さんでは、副作用が出やすくなります。
とくに高齢者ではベースの腎機能が低下していることがあり、減量して投与することが多いです。通常は1日3回のお薬ですが、高齢者では1日2回、あるいは1回に減らして飲んでいただきます。
これらの薬を内服している間は、水を普段より多めに飲むよう勧めています。高齢者では頻繁にトイレに行くのが億劫で、水分摂取を控えている方が多いですが、抗ウイルス薬を飲んでいる間は頑張って水分を多く摂るようにしてください。
元々腎機能が悪いという方には、アメナメビルを処方することが多いです。この薬は主に便中に排泄されるため、腎機能に応じた用法・用量の調節が要りません。1日1回内服で良いという点も、利便性が高いです。
早期治療の重要性
帯状疱疹に対する抗ウイルス薬の投与は、皮疹の出現後5日以内、理想的には72時間以内に開始されることが望ましいとされています。抗ウイルス薬治療が遅れると、後に述べる帯状疱疹後神経痛の発症率が高くなるとされています。
皮疹出現後1週間以上経過しているような場合は、すでに抗ウイルス薬の出番はなく、残った痛みや傷の治療がメインとなってしまいます。
帯状疱疹の約半数では、先述の通り皮疹が生じる前に数日間の「前駆痛」が認められます。このような症状があった後に皮疹が出現した場合は、速やかに医療機関を受診するようにしてください。
帯状疱疹後神経痛(PHN)
帯状疱疹の症状が治まっても長期にわたって神経痛が残ることがあり、帯状疱疹後神経痛(Postherpetic neuralgia; PHN)と呼ばれます。帯状疱疹から帯状疱疹後神経痛に移行する割合は、国内の統計データでは全体で19%と報告されています。年齢によっても発症率が異なり、60-69歳で13.6%、80歳以上では32.9%と、高齢者はリスクが高いと言えます。
そのほか、抗ウイルス薬治療開始の遅れや不十分さ、初期の強い痛み、皮疹の重症度、などが帯状疱疹後神経痛のリスク因子として挙げられています。
帯状疱疹に伴う症状
帯状疱疹では、他にも以下のような症状を併発する場合があります。
- 眼部帯状疱疹(ヘルペス性角結膜炎、虹彩炎、網脈絡膜炎)
- ハント症候群(顔面神経麻痺)
- 髄膜炎(頭痛、発熱、吐気/嘔吐、項部硬直症状)
- 排尿・排便障害
これらの症状が見られた場合は、眼科や神経内科との併診や、入院加療のできる病院への紹介など、適切な対応が必要です。
帯状疱疹の予防
帯状疱疹の発症をワクチンで予防できます。50歳以上の方が対象になります。ワクチンを接種しておくことで、帯状疱疹の発症予防のみならず、発症してしまった場合でも軽症で済む、帯状疱疹後神経痛のリスクを劇的に軽減できるなどのメリットがあります。
身近な人が帯状疱疹を発症して、その苦労を聞いた時などにワクチン接種に関心を持たれる方が多いです。
50歳をすぎたら、ぜひ帯状疱疹ワクチンをご一考ください。
よくある質問
参考文献
- 日本皮膚科学会HP 皮膚科Q&A ヘルペスと帯状疱疹
- 高齢者のウイルス感染症の現状と対策 「帯状疱疹」
- 帯状疱疹の診断と治療
- 帯状疱疹治療過去3年間514症例の解析:特に帯状疱疹後神経痛の発症とアメナメビルとの関連について
- アメナメビル治療が帯状疱疹関連痛および帯状疱疹後神経痛に及ぼす影響の検討
- Incidences of Herpes Zoster and Postherpetic Neuralgia in Japanese Adults Aged 50 Years and Older From a Community-based Prospective Cohort Study: The SHEZ Study
- 知っておきたい!高齢者の感染症 帯状疱疹
- 帯状疱疹大規模疫学調査「宮崎スタディ(1997-2017)」アップデート