爪の色がおかしい、爪が全体に厚くなってきた、爪が脆くなってボロボロと崩れ落ちる。これらの症状は、爪水虫の症状かもしれません。爪水虫は適切な治療をしないと治らないですし、家族など他の人にうつしてしまうリスクもあります。
爪水虫はなかなか治らない病気とこれまで思われてきたかもしれません。しかし、今はいい治療薬が増えてきて、キレイに治せる時代がやってきています。
この記事では爪水虫の症状、原因、治療について皮膚科専門医が解説します。
爪白癬の疫学
爪水虫は、医学用語では「爪白癬(つめはくせん)」と呼ばれます。
爪白癬は、日本国内では人口の約10%(約1200万人)が罹患していると推定されており、皮膚科の外来ではごくありふれた疾患です。爪白癬患者の実に7割は、足白癬を合併しています。足白癬を長期間治療せずに放置しているうちに、爪に水虫菌が入り込んでしまうと想定されています。
爪白癬の罹患率は年齢と共に増加する傾向にあり、60代になると男性のおよそ50%、女性ではおよそ35%が爪白癬に罹患しています。
爪白癬の症状・分類
爪白癬の症状は足の親ゆびの爪に見られることが多いですが、その他の爪、場合によっては10本の足ゆびの爪すべてが侵されることもあります。
爪白癬は症状から以下の4つの病型に分類されています。
遠位側縁爪甲下真菌症(Distal and lateral subungual onychomycosis:DLSO)
爪の先端や側縁から症状が初発し、根元に向かって爪が白色〜王白色に変色していくタイプです。病状が進行すると爪全体が徐々に厚くなってきます。
爪の下側(裏側)は白癬菌の侵食によって粉末状に破壊されていきます。この部分が崩れ落ちると、爪がはがれたように見えます。
爪白癬のうち90%を占めるもっとも多い病型です。足白癬の患者さんで、皮膚病変から直接的に爪に真菌が侵入して発症します。
表在性白色爪真菌症(Superficial white onychomycosis:SWO)
爪表面のみが白濁するタイプです。爪真菌症の5-10%に見られる病型です。白癬菌が爪甲表面の傷から侵入して発症すると考えられています。
病変部はザラザラとしてもろくなっており、メスなどで削ると容易に雲母のように剥がれ落ちます。
このタイプは真菌が爪の比較的浅い層に留まっているため、外用療法のみで治すことができます。
近位爪甲下爪真菌症(Proximal subungual onychomycosis:PSO)
爪の根元側から先端に向かって病変が進行していくタイプです。爪の表面は比較的きれいに保たれていますが、爪下が白濁していきます。足の爪ではまれです。
全異栄養性爪真菌症(Total dystrophic onychomycosis:TDO),
爪白癬の最重症型になります。爪全体が白癬菌に侵され、脆くボロボロと崩れ落ちてしまいます。上記3つのタイプの爪白癬を長年放置した結果の終局像といえる病型です。
爪白癬の原因
爪白癬は他の白癬と同じく、皮膚糸状菌の感染症です。爪白癬の原因菌は、約85%がTrichophyton rubrum、約15%がTrichophyton mentagrophytesで、これら2種類で爪白癬のほとんどを占めています。
皮膚糸状菌は皮膚角層の主な構成成分であるケラチンを栄養素として生息します。このため白癬の症状は角層、爪、毛包などに生じるのです。
足爪白癬は、足白癬の症状から連続して生じると考えられています。足の親ゆびの爪に出ることが多いです。
手の爪に爪白癬が生じることもありますが、足の爪白癬に比べると頻度はとても低いです。
爪白癬になりやすい人
爪白癬を発症しやすくさせる危険因子として、
- 加齢
- 男性
- テニスや陸上競技など足趾に急激に力が加わるスポーツ
- 水泳や体操など裸足になるスポーツ
が挙げられます。
爪に微小な傷が生じ、白癬菌が爪に侵入しやすくなるためと推察されます。
さらに糖尿病、HIV感染・免疫抑制薬長期投与などの免疫不全状態、末梢循環不全の患者さんなどでは、爪白癬の罹患率が高いことが知られています。
これらに該当する方は、爪の変色等に注意して観察していただけると良いと思います。
爪白癬の診断
爪が厚くなったり変色したりする病気は、爪白癬以外にも掌蹠膿疱症、尋常性乾癬、扁平苔癬、厚硬爪甲、爪疥癬、爪下腫瘍などたくさんあります。
そのため爪白癬の診断には見た目の症状だけでなく、病変部に皮膚糸状菌がいることを証明しなくてはなりません。このために真菌鏡検という検査を行います。
真菌がいそうな爪病変部を削り取って、特殊な薬品で溶かして顕微鏡で観察します。糸クズのような皮膚糸状菌が観察されれば、爪白癬の診断となります。
皮膚科以外で「爪の水虫」と言われて皮膚科に受診した患者さんの症状が、爪白癬ではなく別の病気だったということは、皮膚科の外来ではよくある事例です。
爪白癬の治療
爪白癬の治療は大きく内服薬による治療と外用薬による治療とに分けられます。肝機能の問題や他のお薬との飲み合わせの問題がない限りは、内服薬による治療をオススメしています。費用対効果で、内服治療の方が優れているためです。
内服治療のメリットとして、体の中から直接効くので外用薬の塗り残しによる治療漏れがない、という点が挙げられると思います。
実際、内服治療を選んだ患者さんの方が、外用治療の患者さんよりも治療継続率が高いというデータが示されています。これは内服治療の方が効果が実感されやすいということが一つの理由になっています。
一方、爪白癬の4病型のうち表在性白色爪真菌症については、外用薬による根治が充分に目指せます。
内服治療
現在日本国内で処方できる爪白癬の内服薬は以下の3種類です。
- イトリゾール®(イトラコナゾール)
- ラミシール®(テルビナフィン)
- ネイリン®(ホスラブコナゾール)
薬価や内服期間などはそれぞれ異なるので、別記事で詳しく解説したいと思います。
内服治療中は定期的に血液検査を行い、肝機能などに問題がないかを確認しながら治療を続けていきます。
内服治療を始めると、根本から正常な爪が生えてきて、徐々に水虫の爪を追い出していくようにして治っていきます。逆にいうと、爪の伸びが悪い患者さんでは爪白癬はなかなかよくなりません。
外用治療
肝障害や飲み合わせ等の問題で内服治療ができない場合には外用治療が選択されます。
現在日本国内で爪白癬に使用される外用薬は以下の2種類です。
- クレナフィン®(エフィナコナゾール)
- ルコナック®(ルリコナゾール)
1日1回、症状のある爪に直接塗ってもらいます。かぶれてしまうことがあるので、周囲の皮膚についた薬剤はきれいに拭きとるようにしてください。
内服治療に比べて治療期間が長くなります(1−2年)。また、塗り残した爪には当然効果が出ませんので、その点もご注意ください。
内服薬に比べて外用薬の方がトータルの薬価が高くなるのもデメリットとなります。
グラインダー治療
表在性白色爪真菌症や、楔形に爪が濁るタイプの爪白癬では、グラインダー等によって病変部を削り取る治療も有効です。歯医者さんで虫歯の病巣を削り取るのと同様の考え方です。この治療においては、外用治療との併用は必須となります。
さいごに
爪の変形等で悩まれている患者さんは、診断・治療も含めて皮膚科専門医への受診をオススメいたします。
よくある質問
参考文献
- 日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019
- 日本皮膚科学会HP 皮膚科Q&A 白癬(水虫・田虫など)
- Onychomycosis and tinea pedis in patients with diabetes
- わが国における爪白癬治療の現状と問題点
- 爪白癬患者の治療継続に関するインターネットを使った意識調査
- 皮膚真菌症治療における経口抗真菌薬の活用
- 当院における爪白癬患者に対するホスラブコナゾールの有効性と安全性の検討
- 爪白癬患者を対象としたホスラブコナゾールの有効性と安全性に関する多機関共同,レトロスペクティブ研究
- 爪白癬治療剤エフィナコナゾール爪外用液の使用経験
- 17か月間に足第1趾の爪白癬に対しルコナックⓇ爪外用液5%を使用した187症例の治療結果と治療向上のための工夫