やけど(熱傷)

burn symptom

やけどはごくありふれた疾患で、誰もが一度は経験があるのではないでしょうか?

本記事ではやけどの症状、原因、治療、跡が残るかどうか?などについて皮膚科専門医が徹底解説します。

目次

やけどの症状

やけどは医学用語で「熱傷」と呼ばれます。熱傷は文字通り、温度の高い物体に触れることで起こる皮膚や粘膜の外傷です。

熱傷の症状には痛み、発赤、腫れ、水ぶくれなどがあります。熱傷の症状は、とくに受傷後早期では時間と共に変化していくので、初診時に重症度を判定することが難しいです。

やけどの原因

熱傷の原因は、熱湯、ポットや炊飯器等からの水蒸気、フライパン、アイロン、カップ麺など多岐にわたります。高齢者では、仏壇のロウソクの炎が袖口に引火して熱傷を負う方が多いです。冬季には、湯たんぽやホットカーペットを使ったまま寝ることによっておきる低温熱傷も多く見られます。

熱傷の重症度は、原因となる物体の温度と接触した時間の長さに比例します。44℃では、接触時間が6時間を超えるとⅡ度熱傷になります。60℃では5秒ほどで、70℃になるとわずか1秒でⅡ度熱傷になってしまうとされています。

やけどの分類と重症度判定

熱傷は損傷の及ぶ深さによって、Ⅰ〜Ⅲ度に分類されます。Ⅱ度熱傷はさらに浅達性Ⅱ度熱傷(superficial dermal burn; SDB)と深達性Ⅱ度熱傷(deep dermal burn; DDB)に分けられます。熱傷の深さの評価は、臨床症状に基づいて肉眼で行われます。

皮膚の薄い子供や老人では損傷レベルが深くなりやすいです。浅い熱傷では痛みが強く、深い熱傷では逆に痛みが少なくなります。これは痛みを伝える神経自体が損傷されてしまうためです。

熱傷の症状は、とくに受傷後早期では時間と共に変化していくので、初診時に重症度を判定することが難しいです。このため、受傷早期では頻繁に受診していただいて、熱傷の深さを正確に判定する必要があります。

Ⅰ度Ⅱ度Ⅲ度
損傷レベル表皮より浅い表皮、真皮皮膚全層・皮下組織
症状(外見)赤み(充血、発赤)水疱(水ぶくれ)乾燥(黒色、白色)
症状(自覚)痛み、熱感(熱い)痛み(損傷レベルが深くなるにつれて痛みが減少)無痛、感覚なし
治癒期間数日1-4週間1ヶ月以上
傷跡残らない残る場合と残らない場合がある残る
日本形成外科学会HPより

Ⅰ度熱傷

もっとも浅い表皮(皮膚のいちばん上の層)レベルの熱傷です。症状は痛みをともなう紅斑(赤み)で、水ぶくれはできません。跡を残さずに3−4日で治ります。

Ⅱ度熱傷

Ⅱ度熱傷は表皮より一層深い真皮にまでおよぶ熱傷です。

Ⅱ度熱傷はさらに真皮表層までの傷害である浅達性Ⅱ度熱傷(superficial dermal burn; SDB)と、真皮深層にまで傷害がおよぶ深達性Ⅱ度熱傷(deep dermal burn; DDB)に分けられます。

SDBは強い痛みを伴う紅斑で、多くの場合は水疱を伴います。水疱部の発赤は圧迫により消退します。治癒までの期問は1-2週間で、治癒後に跡が残る可能性は少ないです。

DDBは痛みを伴いますが、SDBに比べると痛みが少なくなります。水疱部の発赤は圧迫で消退せず、時間とともに白色の壊死組織が残ります。治癒までの期間は3-4週間以上で、成人では多くの場合で跡が残ります。一方で、乳幼児では跡を残さず治る例が多いです。

Ⅲ度熱傷

Ⅲ度熱傷は皮膚全層、あるいはそれ以上の深さまで損傷がおよぶ、熱傷の最重症型になります。皮膚は灰白色に変化し、水疱を形成しないか、あるいは褐色に炭化します。自然治癒は困難で、多くの場合植皮の手術が必要になります。

Ⅲ度熱傷の補助的な診断法として、針刺法があります。注射針で患部を軽く刺して、痛みがあればII度熱傷、痛みがなければⅢ度熱傷と診断できます。

Ⅲ度熱傷が疑われる場合は、クリニックで治療できる範囲を超えているので適切な高次医療機関へ紹介いたします。

熱傷面積の推定

熱傷面積の推定方法としては、①9の法則、②5の法則および③Lund & Browderの法則などが用いられています。

成人では①②どちらでも大差ありませんが、小児では②を用いるべきです。成人の小範囲熱傷では、本人の全指腹と手掌に相当する面積を約1%とする④「手掌法」を用いると簡便です。

Artzの基準によれば、II度熱傷が15%以下、もしくはⅢ度熱傷が2%以下の症例は外来で治療可能とされています。それ以上の症例では入院加療を要するので、高度医療機関へ紹介になります。

熱傷の初期治療

熱傷の初期治療としては冷却が重要です。受傷部を流水(水道水)で最低30分程度冷却することが推奨されています。小児の場合は冷却により低体温に陥るリスクもあるので、とくに広範囲熱傷の場合は注意が必要となります。

クリニックにおける熱傷治療

熱傷は深さによって治療法が変わってきます。とくに受傷後早期は、症状が日々変化していくので、頻繁に受診していただいて症状の推移を見極める必要があります。

Ⅰ度熱傷の治療

急性期の発赤浮腫を抑え、痛みを軽くするためにステロイド外用剤を塗布します。ステロイド外用薬は傷の治りを悪くする副作用もあるので、使用期間は受傷当初の2日間程度にとどめます。

Ⅰ度熱傷は基本的には特段の治療を要さず、自然に治ります。

Ⅱ度熱傷の治療

Ⅱ度熱傷では水疱に対する処置が重要になってきます。

損傷のない水疱膜は極力温存します。大きくて破裂が予想される場合や緊満して痛みを伴っている場合は、針で刺して中の液を抜きます。液を抜いた後の水疱膜を皮膚面に圧着させ、水疱膜をboilogical doressingとしてそのまま活用します。

この処置は一見簡単そうに思えますが、家庭で行うとばい菌が入って二次感染を起こすリスクがあるので、クリニック・病院で処置をしてもらうようにしてください。

湿潤環境維持を目的にワセリン軟膏基剤を基本とした外用治療を行います。軟膏はあらかじめガーゼに塗布してから患部に当てると、痛みが少ないです。熱傷ガイドラインではトラフェルミン、トレチノイントコフェリル、ブクラデシンナトリウム、プロスタグランジンE1の使用が推奨されています。

トラフェルミンは噴霧式の液状製剤で、創傷治癒の促進および肥厚性瘢痕を予防する効果があります。熱傷創の湿潤環境保持のため、何らかの外用薬や被覆剤との併用が必要になります。

Ⅱ度熱傷の治療では創傷被覆材もよく用いられます。創傷被覆材を利用すると処置の手間が省けるメリットはありますが、創部の感染リスクが上がるので注意が必要です。銀を含有する創傷被覆材では銀イオンによる抗菌活性が期待できます。感染リスクが乏しい浅達性Ⅱ度熱傷は良い適応です。

創傷被覆材は、浸出液の量や感染兆候の有無を目安に交換を行います。貼付前や交換時にトラフェルミンを併用するのも有効です。

Ⅲ度熱傷の治療

Ⅲ度熱傷では、皮膚全層が熱損傷で壊死しているため、感染対策・創傷治癒両者の観点からも、壊死組織を早期に取り除く必要があります。局所麻酔をしてからメスやハサミで切り取ったり、壊死組織を溶かす軟膏を使ったります。それ以降の治療は、Ⅱ度熱傷と同様になります。

熱傷に伴う痒みへの対処

熱傷が治っていく過程で、痒みを生じることが多いです。痒みを我慢できずにかいてしまうと、やけどの治りが悪くなったり、二次感染などの問題を生ずることがあります。痒みが強い場合には、痒み止めの飲み薬(抗ヒスタミン剤)を処方することもあります。

家庭でするやけどの処置

処方された薬剤を、指示通りに外用してください。軟膏は患部に直接塗るのではなく、ガーゼ等に塗ってから患部に当てるようにすると、痛みが少ないです。
患部を泡石けん等で毎日やさしく洗浄して、清潔を保つことが大事です。熱を持つ、赤く腫れる、痛みが強い、悪臭がしてきたなど感染所見が見られた際は速やかに医療機関にご相談ください。

参考文献

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この記事を書いた人

皮膚科専門医・指導医/アレルギー専門医/医学博士/日本医師会認定産業医/がん治療認定医
2001年慶應義塾大学医学部卒業

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