はじめに
「毎日薬を飲んでいるのに、じんましんが出る」「夜中にかゆくて目が覚める」。慢性蕁麻疹では、皮膚の症状だけでなく、睡眠や仕事、日々の生活に支障が出ることがあります。
抗ヒスタミン薬による治療で十分に症状が治まらない方に、新しい飲み薬「ラプシド」が治療の選択肢に加わりました。日本では2026年6月に承認され、同年10月14日に薬価収載・発売されています。
この記事では、ラプシドの仕組み、期待できる効果、飲み方、副作用、治療費について解説します。
慢性蕁麻疹とは
蕁麻疹は、かゆみを伴う赤い盛り上がり「膨疹(ぼうしん)」が、皮膚に出たり消えたりする病気です。個々の膨疹は通常24時間以内に消えますが、出没を繰り返します。こうした症状が6週間以上続くものを慢性蕁麻疹と呼びます。
そのうち、食べ物や寒さ、圧迫など、症状を直接引き起こす特定の原因・刺激を見つけられないタイプが**「特発性慢性蕁麻疹」**です。原因が特定できないからといって、治療できないわけではありません。
治療の基本は、第2世代抗ヒスタミン薬の内服です。十分な効果が得られない場合には、薬の変更や増量などを検討し、それでも生活に支障が残る方には追加の治療を考えます。増量できる範囲は薬によって異なるため、自己判断で量を増やさないでください。
蕁麻疹の種類や診断については、「蕁麻疹(じんましん)」もご一読ください。

ラプシドとはどのような薬ですか?
ラプシドの一般名は「レミブルチニブ」です。ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬という種類の飲み薬で、蕁麻疹に関係する細胞内の信号を抑えます。
国内で承認されているのは、既存治療で効果不十分な、特発性の慢性蕁麻疹です。抗ヒスタミン薬の増量などの適切な治療を行っても、生活に支障をきたすほどのかゆい膨疹が繰り返し出る場合に、追加して使用します。すべての蕁麻疹に使う薬ではありません。
ラプシドが蕁麻疹を抑える仕組み
皮膚には「マスト細胞」という免疫細胞があります。マスト細胞が活性化するとヒスタミンなどを放出し、かゆみや膨疹が起こります。
BTKは、マスト細胞などの内部で、活性化の信号を伝える酵素です。ラプシドはBTKの働きを抑え、ヒスタミンなどが放出される過程に作用します。
抗ヒスタミン薬が、放出されたヒスタミンの作用を受容体で抑えるのに対し、ラプシドは放出に至る細胞内の信号に働きかけます。作用する場所が異なるため、抗ヒスタミン薬に追加する治療薬として処方されます。
どのくらいの効果が期待できますか?
ラプシドは、比較的早い段階からかゆみや膨疹の改善が期待できる薬です。臨床試験では服用開始1週目から改善がみられており、速効性が期待されます。ただし、効果が現れる時期や程度には個人差があります。
使用できる方と飲み方
治療前に確認すること
診察で、蕁麻疹の種類、症状の強さ、生活への影響、これまで使った抗ヒスタミン薬とその量・期間などを確認します。初診時にはこれまでの治療歴が分かるように、必ずお薬手帳を持参いただくようお願いいたします。
持病、出血の経験、現在の薬、手術や予防接種の予定、妊娠・授乳の状況も大切です。
国内の用法・用量は成人を対象としています。小児を対象とする臨床試験は実施されておらず、小児患者には処方できません。
服用回数とほかの薬との併用
通常、1回25mg(1錠)を1日2回、水またはぬるま湯で服用します。効果が足りないと感じても、自己判断で増量しないでください。飲み忘れた場合も、2回分を一度に飲んではいけません。
ラプシドは、抗ヒスタミン薬などに追加して使う薬です。開始したからといって、これまでの薬を自己判断で中止しないでください。
一方、ゾレアやデュピクセントなど、対象疾患の生物学的製剤との併用は避けると定められています。併用時の安全性と有効性が確立していないためです。
注射薬からの切り替えは、医師と相談して決めます。
副作用と治療中の注意点
過去にラプシドの成分で過敏症を起こした方は使用できません。肝臓などの持病がある方も、治療前に必ず医師へ伝えてください。
主な副作用
電子添文には、上気道感染や点状出血が1〜5%未満の副作用として記載されています。点状出血とは、皮膚に小さな赤紫色の点が現れることです。ほかに、あざ、鼻血、歯ぐきの出血なども報告されています。
次のような変化があれば、処方した医療機関へ連絡してください。
- あざや赤紫色の点が増える、鼻血や歯ぐきの出血を繰り返す
- 血尿、黒い便、止まりにくい出血がある
- 発熱やせきなどの感染症状が続く、体調が悪化する
大量の出血や強い息苦しさなど、急な重い症状がある場合は、速やかに救急受診してください。
現時点の電子添文には「重大な副作用」の独立した項目はありません。ただし、それは重い副作用が起こらないという意味ではありません。製造販売後も、重篤な出血、感染症、肝機能障害、血球減少などについて情報収集が続けられています。これらは薬との関係が確定した副作用と区別して評価されています。
飲み合わせ、手術、予防接種
一部の抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬や、てんかんの薬などは、ラプシドの血中濃度に影響します。また、血液を固まりにくくする薬との併用では出血に注意が必要です。抗凝固薬(サラサラの薬)を内服している方は、診察時に医師にお伝えください。
手術の予定がある場合は、事前に医師へ伝えましょう。出血リスクに応じて、手術前後3〜7日間の休薬を検討します。
治療中は生ワクチンの接種を行いません。不活化ワクチンについても、接種1週間前から2週間後までの休薬を検討する規定があります。接種や休薬の時期は、自己判断せず医師に相談してください。
妊娠・授乳と経過観察
妊娠中の服用は推奨されません。 妊娠中または妊娠している可能性がある場合は、治療上の利益が危険性を上回ると医師が判断する場合に限って使用を検討します。妊娠を希望する方も、開始前に必ずご相談ください。
妊娠する可能性のある女性は、服用中と最終服用後1週間、適切な避妊が必要です。授乳中の方は、治療と母乳栄養の利益を考慮して、授乳の継続・中止を医師と相談します。
治療中は症状の改善だけでなく、出血や感染症の兆候なども確認します。血液検査の必要性や項目・間隔は、持病や併用薬、症状に応じて医師が判断します。検査が不要な薬と決めつけず、指示された診察を受けることが大切です。
治療費と保険適用について
薬剤費の目安
ラプシドの薬価は、1錠929円です。
通常の1日2錠で、ラプシドだけの薬剤費を計算すると次のようになります。
| 期間 | 計算根拠 | 薬剤費(10割) | 3割負担の概算 |
|---|---|---|---|
| 14日分 | 929円×2錠×14日 | 26,012円 | 約7,804円 |
| 30日換算 | 929円×2錠×30日 | 55,740円 | 約16,722円 |
診察料、検査料、処方・調剤に関する費用、併用する抗ヒスタミン薬などの費用が別途かかります。
新薬のため、2027年10月末日までは、1回の処方は14日分が限度です。30日換算は費用を見通すための計算であり、一度に30日分を処方できるという意味ではありません。
さいごに
ラプシドは、抗ヒスタミン薬による適切な治療でも症状が十分に治まらない、特発性慢性蕁麻疹に対する新しい内服治療です。治療の選択肢が広がる一方、出血や飲み合わせ、予防接種などへの注意が必要です。
どの薬が適しているかは、症状やこれまでの治療、持病、生活の状況によって異なります。かゆみが続く、眠れない、現在の治療で困っていることがある場合は、診察時にお聞かせください。とも皮膚科クリニックでも、慢性蕁麻疹のお悩みについてご相談いただけます。
受診をご希望の方は、当院ホームページからWeb予約をお取りください。
よくある質問
参考文献
- 蕁麻疹診療ガイドライン2026(第4版)
- Remibrutinib in Chronic Spontaneous Urticaria
- Remibrutinib in chronic spontaneous urticaria: 52-week results from two phase 3 studies
- Remibrutinib Showed a Favorable Safety Profile and Sustained Efficacy in Japanese Patients with Chronic Spontaneous Urticaria Over 52 Weeks
- Safety of Remibrutinib in Chronic Spontaneous Urticaria: A Pooled Analysis of REMIX-1 and REMIX-2 Trials
- Safety and Efficacy of Remibrutinib for Chronic Spontaneous Urticaria: A Systematic Review and Meta-Analysis
- Update on the Treatment of Chronic Spontaneous Urticaria
- Emerging IgE and non-IgE targeted therapies for chronic urticaria

