アトピー性皮膚炎治療の新しい選択肢「生物学的製剤」と「JAK阻害薬」について

目次

はじめに(アトピー治療の新しい選択肢)

アトピー性皮膚炎の治療は、ステロイド外用薬をはじめとする外用治療と、日々の丁寧なスキンケアが基本となります。しかし、「指示通りに一生懸命塗っているのに、どうしても強いかゆみがぶり返してしまう」、「夜中にかゆみで目が覚めてぐっすり眠れない」とお悩みの方も少なくありません。出口が見えないようなつらさを抱え、半袖の衣服を着るのをためらったり、日常生活にストレスを感じたりされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

このような場合には、炎症やかゆみに関係する体内の仕組みに直接働きかける「生物学的製剤」や「JAK阻害薬」が治療の選択肢になります。

この記事では、生物学的製剤とJAK阻害薬の違い、期待できる効果、副作用、必要な検査、治療費等について皮膚科専門医が解説します。


アトピー性皮膚炎では全身療法が必要になることがあります

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が、よくなったり悪くなったりを繰り返す慢性的な皮膚疾患です。

皮膚のバリア機能の低下、免疫反応の異常、かゆみを感じる神経の働きなど、複数の要因が関係しています。

治療の基本は、次の3つです。

  1. ステロイド外用薬などによる炎症の治療
  2. 保湿剤を用いたスキンケア
  3. 症状を悪化させる刺激や環境因子への対策

まずは、皮疹の部位と重症度に合った外用薬を、充分な量で正しく使用することが大切です。

しかし、適切な外用治療を行っても中等症以上の症状が続く場合には、注射薬や内服薬など、全身に作用する薬剤による治療が検討されます。

生物学的製剤やJAK阻害薬を使ったからといって、外用薬による治療が不要になるわけではありません。原則として、外用療法やスキンケアを継続しながら使用します。

生物学的製剤(注射薬)とは?

生物学的製剤の特徴

生物学的製剤は、アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみに関わる特定のサイトカインまたは受容体に作用する注射薬です。

皮疹やかゆみ、睡眠、生活の質の改善が期待されますが、効果が現れる時期や程度には個人差があります。また、注射部位反応、眼症状、アレルギー反応などが起こることがあり、注意すべき副作用は製剤によって異なります。使用できるかどうかは、症状やこれまでの治療経過などを踏まえて判断します。

製剤や患者さんの年齢・状態によっては、医師の指導を受けたうえで自己注射が可能です。自己注射の可否や通院間隔は、使用する薬剤と患者さんの状況に応じて判断します。

当院で扱う具体的な薬剤名と特徴

  • デュピクセント®(一般名:デュピルマブ)
    IL-4およびIL-13を介する信号を抑える注射薬です。生後6か月以上の方が対象ですが、年齢や体重によって投与量・投与間隔等が異なります。副作用として結膜炎(目のかゆみ)を生じる場合があります。
  • アドトラーザ®(一般名:トラロキヌマブ)
    IL-13に作用する注射薬です。2週間隔で注射をします。成人の方(15歳以上)が対象となります。
  • イブグリース®(一般名:レブリキズマブ)
    アドトラーザと同様に、IL-13に作用する注射薬です。12歳以上かつ体重40kg以上の方が対象です。通常は2週間隔で投与し、患者さんの状態に応じて4週間隔の投与を検討する場合があります。
  • ミチーガ®(一般名:ネモリズマブ)
    IL-31受容体に作用し、アトピー性皮膚炎に伴うかゆみを抑える注射薬です。4週間隔で注射をします。6歳以上の方から使用が可能です。原則として、ステロイド等の抗炎症外用療法を継続しながら使用します。

JAK阻害薬(内服薬)とは?

JAK阻害薬の特徴

経口JAK阻害薬は、細胞内のJAK経路を介して伝わる炎症やかゆみに関係する信号を抑える内服薬です。

薬剤によっては比較的早い時期にかゆみの変化がみられることがありますが、効果が現れる時期や程度には個人差があります。感染症、帯状疱疹、血液検査値の変化などに注意が必要なため、治療前の検査と治療中の定期的な経過観察を行います。

当院で扱う具体的な薬剤名

  • オルミエント(一般名:バリシチニブ)
    JAK1およびJAK2に作用する内服薬です。2歳以上が対象で、年齢や体重によって投与量が異なります。外用療法等を継続しながら使用します。
  • サイバインコ(一般名:アブロシチニブ)
    JAK1に作用する内服薬で、12歳以上が対象です。吐き気などがみられることがあります。症状がある場合は、服用方法を自己判断で変更せず、医師へご相談ください。
  • リンヴォック(一般名:ウパダシチニブ)
    JAK1に作用する内服薬です。アトピー性皮膚炎では、12歳以上かつ体重30kg以上の方が対象です。感染症などのリスクを含めて患者さんの状態を確認し、使用の可否を判断します。

※ なお、JAK阻害薬による治療を開始する際には、事前の胸部レントゲン検査や採血検査で感染症(肝炎や結核)の有無を確認する必要があります。内服中も帯状疱疹等の感染症への注意や、定期的な血液検査などによる安全性の確認が必要となります。


生物学的製剤とJAK阻害薬の違い

比較項目生物学的製剤経口JAK阻害薬
投与方法皮下注射内服
投与頻度2-4週間ごと。薬剤により異なる原則として毎日
主な作用特定のサイトカインまたは受容体に作用細胞内のJAKを介した複数の炎症信号を抑える
期待できる効果皮疹、かゆみ、睡眠、生活の質の改善皮疹、かゆみ、睡眠、生活の質の改善
治療前検査病歴や使用薬剤に応じて実施結核、肝炎ウイルス、血算、肝機能、腎機能など
治療中の検査薬剤や患者さんの状態に応じて実施定期的な血液検査が必要
主な注意点注射部位反応、眼症状など。薬剤により異なる感染症、帯状疱疹、検査値異常など。まれに重い副作用がある
対象年齢製剤ごとに異なる製剤ごとに異なる

生物学的製剤とJAK阻害薬のどちらかが、すべての患者さんにとって優れているわけではありません。

症状、年齢、既往歴、感染症のリスク、注射への抵抗、毎日の内服が可能か、通院頻度などを考慮して選択します。

主な副作用と注意点

生物学的製剤の主な副作用

生物学的製剤では、薬剤によって次のような副作用がみられることがあります。

  • 注射部位の赤み、腫れ、痛み
  • 結膜炎、眼の充血、かゆみ、乾燥感
  • 頭痛
  • 皮膚感染症
  • アトピー性皮膚炎の一時的な悪化
  • アレルギー反応

副作用の種類や頻度は、製剤によって異なります。

眼の充血や痛み、目やに、見え方の変化が続く場合には、医師へご相談ください。症状によっては眼科での診察が必要になります。

息苦しさ、全身のじんましん、顔やのどの腫れなどが現れた場合には、重いアレルギー反応の可能性があります。速やかに医療機関を受診してください。

JAK阻害薬の主な副作用

経口JAK阻害薬では、次のような副作用に注意します。

  • 上気道感染症などの感染症
  • 帯状疱疹
  • にきび
  • 吐き気
  • 肝機能値や脂質値の変化
  • 白血球、リンパ球、赤血球、血小板などの異常
  • 筋肉に関係する検査値の上昇

頻度は高くありませんが、重い感染症、結核、B型肝炎ウイルスの再活性化、静脈血栓塞栓症、消化管穿孔などが報告されています。

年齢、喫煙歴、血栓症や心血管疾患の既往、悪性腫瘍の治療歴、感染症のリスクなどを確認し、治療の利益とリスクを検討します。

発熱、強い倦怠感、咳、息苦しさ、胸痛、片脚の急な腫れや痛みなどが現れた場合には、自己判断で服用を続けず、速やかにご相談ください。

治療前・治療中に行う検査

使用する薬剤と患者さんの状態に応じて、治療前に次の項目を確認します。

  • アトピー性皮膚炎の重症度
  • これまでに行った治療
  • 感染症や帯状疱疹の既往
  • 結核感染の有無
  • B型・C型肝炎ウイルス
  • 血球数
  • 肝機能・腎機能
  • 脂質
  • 妊娠の可能性、妊娠・授乳の状況
  • 予防接種の予定
  • 現在使用している薬

特にJAK阻害薬では、治療開始後も定期的な血液検査が必要です。

生物学的製剤でも、薬剤、既往歴、症状に応じて検査を行います。

妊娠を希望している方、妊娠中または授乳中の方は、治療開始前に必ずお申し出ください。

予防接種についても、ワクチンの種類や接種時期を事前に医師へご相談ください。

治療を受けられる方・費用について

治療の対象となる方

生物学的製剤や経口JAK阻害薬は、受診したすべての方がすぐに使用できる薬ではありません。

一般に、適切な外用療法やスキンケアなどを一定期間行っても十分な効果が得られない場合に検討します。対象年齢、体重、症状の程度、これまでの治療内容、既往歴、感染症のリスク、検査結果などを確認し、薬剤ごとの基準に基づいて医師が判断します。

費用面について

これらの薬剤は、使用する薬剤や投与量によって薬剤費が高額になる場合があります。実際の自己負担額は、自己負担割合、処方内容、検査内容等によって異なります。

高額の医療費負担を軽減する制度としては、以下のようなものがあります。

  1. 高額療養費制度
  2. 付加給付制度
  3. 子ども医療費助成
  4. 医療費控除

患者様の年齢やご世帯の所得状況によって最適なサポート制度が異なります。

当院でも、おおよその薬剤費や制度についてご説明しますが、最終的な給付条件は加入している保険者へお問い合わせください。


治療を検討している方へ

当院では、アトピー性皮膚炎に対する生物学的製剤、経口JAK阻害薬、紫外線療法などに対応しています。

すべての患者さんにこれらの治療を行うわけではありません。診察と必要な検査を行い、適応、期待できる効果、主な副作用、治療費等をご説明したうえで、治療方法を一緒に検討します。

受診をご希望の方は、当院ホームページからWeb予約をお取りください。

よくある質問

生物学的製剤やJAK阻害薬は、誰でも使用できますか?

適切な外用治療等を行っても十分な効果が得られない場合に、年齢、体重、症状、これまでの治療内容などを確認し、薬剤ごとの適応や導入基準に基づいて判断します。

生物学的製剤とは、どのような薬ですか?

アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみに関わる特定の物質を抑える注射薬です。当院では次の4剤を扱っています。

  • デュピクセント
  • アドトラーザ
  • イブグリース
  • ミチーガ

薬ごとに対象年齢や使い方、副作用が異なります。

JAK阻害薬とは、どのような薬ですか?

炎症やかゆみの情報を伝える「JAK経路」を抑える飲み薬です。当院では次の3剤を扱っています。

  • オルミエント
  • サイバインコ
  • リンヴォック

薬ごとに対象年齢や必要な検査が異なります。

生物学的製剤とJAK阻害薬は、どちらがよく効きますか?

どちらが「より効く」と一律に決めることはできません。生物学的製剤とJAK阻害薬は、それぞれ作用する仕組みや特徴が異なり、患者さんの状態や合併症などによって適した治療が変わります。治療開始後の反応を見ながら、必要に応じて変更することもあります。

どのくらいで効果が現れますか?

薬剤によっては比較的早い時期にかゆみの改善がみられることがありますが、効果が現れる時期や程度には個人差があります。一方で、皮膚の赤みや湿疹が十分に改善するまでには、もう少し時間がかかることもあります。治療薬によっても効果発現のスピードは異なるため、一定期間ごとに診察を受けながら、症状の変化や副作用の有無を確認していきます。焦らず継続することが大切です。

生物学的製剤は自宅で注射できますか?

薬剤や患者さんの状態によっては、医師の判断と指導のもとで自己注射が可能です。開始前に、注射方法や保管方法、副作用時の対応を説明します。クリニックで2回の注射指導を行った後に、処方箋を発行します。自己注射が可能になると通院回数を減らせるメリットがありますが、決められたスケジュールを守ることが重要です。

どのような副作用がありますか?

薬によって異なります。生物学的製剤では注射部位の赤みや結膜炎など、JAK阻害薬では感染症や帯状疱疹、採血検査値の変化などに注意が必要です。治療中は必要に応じて診察や検査を行います。

JAK阻害薬では、治療開始前になぜ血液検査が必要ですか?

安全に使うため、治療前後に血液検査を行います。主に血球数、肝機能、腎機能、脂質、感染症の有無を確認し、副作用を早めに見つけます。

治療を始めると、ステロイド外用薬は不要になりますか?

外用治療薬やスキンケアは治療の基本であり、生物学的製剤やJAK阻害薬の開始後も、原則として継続します。症状が安定すれば少しずつ調整できますが、自己判断で中止しないようにしてください。

子どもでも治療を受けられますか?

はい、小児でも使用できる生物学的製剤やJAK阻害薬があります。ただし、使用できる年齢や体重、投与量、適応条件は薬剤ごとに異なります。症状の程度やこれまでの治療経過を確認したうえで、慎重に判断します。保護者の理解と協力も重要です。

治療費が高額になった場合、利用できる制度はありますか?

条件により、次の制度が使えることがあります。

  • 高額療養費制度
  • 子どもの医療費助成制度
  • 健康保険の付加給付

自己負担額は条件によって異なるため、詳しくはご相談ください。

症状がよくなったら治療を中止できますか?

症状が落ち着いても、治療を中止した後に再び悪化することがあります。自己判断で中止・休薬せず、症状、副作用、検査結果などを確認しながら、継続、投与間隔の調整、休薬または中止について医師と相談して決めます。

参考文献

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この記事を書いた人

皮膚科専門医・指導医/アレルギー専門医/医学博士/日本医師会認定産業医/がん治療認定医
2001年慶應義塾大学医学部卒業

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